東京地方裁判所 平成11年(ワ)6527号 判決 1999年5月28日
原告 X
右訴訟代理人弁護士 難波修一
右同 兼松由理子
右同 寒竹恭子
右同 向宣明
右同 岩波修
右同 上村真一郎
右訴訟復代理人弁護士 西山哲宏
被告 株式会社東京都民銀行
右代表者代表取締役 A
右訴訟代理人弁護士 上野隆司
右同 髙山満
右同 廣渡鉄
右同 浅野謙一
主文
一 原告の訴えを却下する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
被告は、原告に対し、別紙確認債権目録記載の債務が存在しないことを確認する。
(以下、別紙確認債権目録記載の債権を「本件債権」という。)
第二前提となる事実(争いのない事実あるいは引用の証拠あるいは弁論の全趣旨により認定できる事実)
一 当事者
原告は、訴外a株式会社(以下「訴外会社」という。)が被告に対して負っていた債務を担保するため(本件債権はその一部)、昭和五六年二月一七日、自己の所有する別紙物件目録<省略>の土地建物に根抵当権を設定し、その旨の登記がなされた(以下「本件根抵当権」という。)。
その後、訴外会社は昭和五七年に東京地方裁判所により破産宣告を受け(甲一〇)、昭和六一年四月二三日、訴外会社に対し破産終結決定が出され、同年五月二一日、その旨の公告が行われた。
二 本件根抵当権に基づく競売手続
被告は本件根抵当権に基づき不動産競売の申立てを行い、平成八年一二月六日、浦和地方裁判所は不動産競売開始決定をした。
これに対し、原告は本件根抵当権は消滅しているとして、平成九年七月二三日、競売手続停止(根抵当権実行禁止)仮処分命令の申立てを行い、同旨の仮処分決定により、現在右不動産競売手続は停止されている。
三 執行異議並びに本件根抵当権不存在確認請求訴訟及び本件根抵当権設定登記抹消登記手続請求訴訟
1 原告は、本件根抵当権に基づく不動産競売開始決定に対する執行異議を申立て、同決定の取消を求めたが、平成九年六月五日、浦和地方裁判所は競売申立人(被告)と執行異議申立人(原告)との主張が事実上も法律上も全面的に対立しており、本格的審理を尽くさないままに、執行異議という簡易な手続で処理することはできないとして、原告の執行異議申立てを棄却した(甲九)。
2 そこで、原告は、平成九年九月、根抵当権不存在確認請求及び根抵当権設定登記抹消登記手続請求訴訟を東京地方裁判所に提起した(乙一、以下「先行訴訟」という。)。
この訴訟において、原告は本件根抵当権の被担保債権は訴外会社の破産終結決定の公告から一〇年を経過したことにより時効により消滅した、原告は右時効を援用する、したがって附従性により本件根抵当権も消滅したと主張した。
平成一〇年四月二〇日、東京地方裁判所は概要以下の理由により、原告の請求を棄却した(甲一〇)。
破産終結決定がなされた場合、当該法人に残余財産がないときは、当該法人は、破産終結決定のときにおいて法人格を喪失し、当該法人に対する債権も右破産終結決定のときに消滅するものと解すべきである。他方、破産法三六六条の一三、会社更生法二四〇条二項の趣旨に鑑み、破産終結により債務者の法人格が消滅して債務が消滅した場合といえども、右債務を担保するために設定された根抵当権の効力に影響を及ぼさないと解すべきである。そして、破産終結決定により法人たる訴外会社は消滅し、訴外会社に対する本件債権も消滅して、被担保債権である被告の訴外会社に対する債権を観念する余地はないから、被担保債権の一〇年の消滅時効に従い、附従性の原則により根抵当権も一〇年で消滅すると解することはできず、被担保債権の消滅に影響を受けることなく、独立して存続することになった根抵当権は、民法一六七条二項により二〇年の消滅時効によって消滅することになると解すべきである。
この判決を不服として、原告は控訴したが、平成一一年三月一七日、控訴裁判所である東京高等裁判所は概要以下の理由により、控訴を棄却した(甲一一)。
法人について破産手続が開始された後破産終結決定が行われた場合、当該法人に対する債権は消滅するが、破産法三六六条の一三の趣旨を類推して、右債権を担保するために設定された根抵当権の効力には影響を及ぼさず、その場合独立して存続することになった根抵当権については、民法一六七条二項の原則に従い二〇年の時効によって消滅すると解するのが相当である。
原告は、第二審判決を不服として、上告受理申立てを行った。
第三本案前の主張
一 被告の主張
1 本件訴えは二重起訴の禁止に反する。
先行訴訟と本件訴訟とでは、訴訟物は異にするものの、本件訴訟において被担保債権の不存在が確認されれば、原告から担保権の附従性により担保権が消滅するという主張をされるおそれがあるから、本件根抵当権の存否に関し、実質的に判断が矛盾する事態が生じかねない。
2 本件訴えには確認の利益はない。
先行訴訟においては、本件債権が消滅していることを理由中で判断しているから、本件訴訟において改めてこの点の確認を求める利益は存在しない。
二 原告の反論
1 先行訴訟と本件訴えとでは明らかに訴訟物を異にするから、二重起訴にはあたらない。
2 先行訴訟で判断されるのは、本件根抵当権は存在するかどうかということのみであって、本件根抵当権に基づいて競売手続を進め、配当金(弁済金)を受領できる権限については何ら判断されていない。しかも、先行訴訟においては、本件債権の存否について既判力をもって確定するものではないから、本件訴えには確認の利益がある。
第四本案について
原告、被告間には、本件被担保債権が消滅していることにつき実質的な争いはない。
第五当裁判所の判断(確認の利益について)
原告が問題とするのは、結局のところ、本件根抵当権に基づいて競売手続を進めることができるかどうかである、そして、この問題の解決のために、先行訴訟を提起し、その中で本件債権が消滅していることを前提として本件根抵当権不存在確認請求及び本件根抵当権設定登記抹消登記手続請求をしていたが、なお、先行訴訟においては、本件根抵当権の存否についてのみ判断され、これに基づいて配当金(弁済金)を受領できるかどうかについては別個の問題であり、本件訴訟により被担保債務が存在しないことが認められれば、なお、執行裁判所において、本件根抵当権に基づく競売手続を認めないとする余地があるから、先行訴訟とは別個に本件訴訟を提起する意義があるとする。
しかしながら、原告の先行訴訟における理解は相当ではない。先行訴訟における第一審、第二審の判決から明らかなように、これらの判決は根抵当権の担保すべき元本は訴外会社の破産により確定していることを当然の前提としている(三九八条の二〇第一項五号、その意味で被担保債権が存在しない状態の確定前の根抵当権とは全く事情を異にする)。これらの判決は、その前提で、被担保債権が消滅しても、なお根抵当権は消滅していないと判断しているのであって、当然根抵当権に基づいて競売手続を進めることができると考えているのである。原告は、なぜ被担保債務が存在しないのに根抵当権を実行しその手続の中から配当金を受領できるのかについて疑問を呈するが、それは破産法三六六条の一三の趣旨の類推適用であると明確に判示している(免責の場合には、一般的に債務はいわゆる自然債務としての残ると解されているのに対し、本件では債務が消滅してしまうところが違うので、趣旨の類推適用という表現になっているものと解される)。
したがって、上告審において、先行訴訟における第二審までの判断が誤っており、根抵当権が消滅しているということになれば、それで原告の目的は達成されるし、上告審において第二審の判断が維持されたとすれば、本件根抵当権に基づき競売手続が進められるのであり、いずれにせよ先行訴訟における最終的な判断によって問題は抜本的に解決される。
つまり、本件訴訟において、被担保債権がないことを確認したところで、何ら問題の解決に資するところはない。このような場合には本件訴えの確認の利益はないと解せられる。
よって、その余について判断するまでもなく本件訴えは不適法であるから、主文のとおり判決する。
(裁判官 金子修)
<以下省略>